今日が夫の誕生日だということはもちろん覚えていて、忘れているのではないけれど、忘れるほど忙しいという言い訳もできる。
それは私が今、一歳の娘を育てているから。しかもはじめて。何もかもはじめて。夫は40回目なんだから、はじめてじゃない。でも、私は毎日がはじめてのことばかりで、できないことだらけでイライラして、疲れて、寝て、起こされての繰り返しだったから、本音は夫の誕生日よりも、毎日アップデートされる私の育児スキルをねぎらってほしいくらいの気持ちだった。
だけど、形式上はプレゼント何がいい? と聞いていて、革靴が欲しいと言っていたから、一緒に行かないと買えないし、誕生日に間に合わないのは本人も承知していた。
今朝はいつも通り起きて、すこし早めに出勤する夫にお昼ご飯用のおにぎりとすこしのおかずとすこしのおやつをいつものミッキーマウスの袋に入れて準備した。
「察してよ」「いやいや、それはムリだよ」の攻防戦ばかり繰り返している、最近の私たち。言葉で説明しあってもどうにも解決しないから、新婚時代の気持ちを取り戻すために、もう言葉じゃなくって行動で解決してみようということで、いってきますの儀式を再開しようと私から提案した。
にもかかわらず、寒さと眠さで忘れていて、「はい、いってらっしゃい」と早口で言う私に夫が「あ」と言って口を突き出してきた。「あ、そうやった」とおんぶしている娘がドアにぶつからないように振り返った。
視力がはっきりしてきた娘は二階の玄関から、道を歩く夫がわかるようで、見えなくなるまで手を振るようになった。手を振り返しながら夫はうれしそうに仕事に行った。
さぁ、今日はどうしよう。外は寒いけれど娘の下痢も治ってきているし、ひさしぶりに近くの児童館にでも連れて出かけようか。誕生日の夫は今日も遅いし、晩ごはんは会社のケータリングで済ますからほぼいらないと言ってたし、準備する必要もない。ケーキは土日のうちに食べておいたから大丈夫。
大丈夫。ん? ほんとに? なんか、違う気がする。ごはんはいらないって言っても、うどんかお茶漬けくらいの軽いものは食べるし、誕生日本番に何もないってやっぱり大丈夫じゃない。
でも最近寒くなりすぎて、娘の防寒着が間に合ってないからデパートに行ってみようかな。ついでに、夫の好きな御座候のおまんじゅうを買って帰ろう。ついでに、夫の好きなマメダのおいなりさんもあそこならある。ん? どっちがついでなのか、わからなくなってきたけど、とりあえず出かけよう。
デパートに行くから、娘のお昼ごはんも準備してちょっと大きめのバッグをよいしょとかついだ。JRに乗るためにいつもと違うルートでイオンを通過していると、いつもと違うお店に目がいった。
ふらっと入ると、真っ白でフワフワであったかそうな娘の防寒着があった。手にとって見ていると、優しそうな男性の店長さんらしき人が近づいてきて、「こちらはリバーシブルになるんですよ」と言った。「いいですね」「さらに袖も取れるのでベストにもなるんですよ!」「いいですね!」
夫の誕生日の準備よりも娘の防寒着試着にテンションを上げた。白、赤、茶色のうち、どれにするか迷いに迷って、「一晩考えます」ということになった。優しい店長さんは、「もちろんです」と言った。さて、デパートに行く必要もなくなったし、お昼ごはんでも買って帰ろうとした時、男性もののコーナーに白いセーターを見つけた。
あ、そうだった。白いセーターは先週から探していて、家族3人でお揃いで着れたらいいねなんて言ってた。ふつうのLサイズよりも少し小さめに作ってあるというから、店長さんと相談してワンサイズ大きい方を買った。万が一合わなかったら取り替えてくれるらしい。いいお店だ。
娘のときに比べ、あまりにも早く決めたから、店長さんがレジで「通常のお包みでよろしいですか?」と言った。「あ、いえ、今日誕生日なんで…」と半笑いで返すと、「それはおめでとうございます」とリボンをつけて、それらしく包んでくれた。
予定外だったけど、ちゃんとしたプレゼントを準備したらすごくいいキブンになった。夫がバッチリ気にいるかはわからないけれど、プレゼントがあるとは思っていないだろうし、サプライズだから余計に演出もできる。
2ヶ月前の私の誕生日のときは、夫はわざわざ仕事帰りにデパートにいって私の好きなブランドの化粧品とケーキを買ってきてくれた。その中に2行だけど、いつもありがとう、お誕生日おめでとうのメッセージが入ってた。手紙とか苦手なはずで、しかもその場で書けなんて即興も苦手なはずなのに、書いてくれたんだと思った。
育児がうまくいかなくて、苦手だといって、今日私が何もしなくっても夫は何も言わなかったと思う。だけど、夫が出がけの儀式を忘れてなかったということはやっぱり夫にとっては特別な日なんだ。私にとっての特別な日も忘れずにいてくれた。特別な日にしてあげられるのは、私しかいない。うれしそうにしてたのは、娘が手を振ったことよりも、私と昔のようにできたことだったのかもと思った。
去年の誕生日は、私は実家で娘を育てていたから、一緒に祝えなかった。夫はそのことをとてもさみしがっていた。こっちの方が大変なんだからそれくらいガマンしてよ、と思ったのを覚えてる。
つまり、娘が生まれてから私の意識は娘にいっていて、でも夫は昔のままで、うまくいかないのは当然なんだ。でも、私だってうまくいかせたい。
じゃあ、どうする? うまくいかせたい気持ちを伝えるしかない。誕生日は絶好のチャンスかも。娘が昼寝モードに入ったから手紙を書いた。開けたとたん元どおりの夫婦に! なんて魔法はかけられてないけれど、私の気持ちはすこし落ちついた。
それでいいのかもしれない。こんな感じでしか進めないのかもしれない。ずっと変わらずにはいられない。変わって悩んで、ちょっと戻ってまた進んで、変わって悩んでの繰り返し。
誕生日は一年に一度かならずくる。そのとき、今年はどうでもいいやーって思わずに、どうしようかな? って向き合ってみよう。きっと、私だって何かしたかった。どうにかしたかった。
誕生日はどうにもならなさそうなことを、どうにかできるかもしれない日。さて、そろそろ夫が帰ってくる。
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