iphone7プラスを買いに行ったけど、私が欲しかったものには値札がついていませんでした。

大丈夫かな、この子・・・・・・。わたしにスマホの料金を説明してくる女の子は、あきらかに20代。ほぼすっぴんのような顔で学生ですと言われたら、「やっぱ、そうですよね」と何にも疑わずに返すと思う。

 

iphone8が発売されたのをいいことに、ひとつ前の機種をすこしでも安く買ってやろうと、もくろんでいる私にとって目の前の女の子はあきらかに頼りなかった。こちらが言うことを何でも「そうですね」で返すし、在庫はありますか? と聞くと「少々お待ちください」と言って奥で誰かに確認している。買う気を見せても、ぜんぜん強く押してこない。とりあえず話だけ聞いておこう。途中からそう思って、見積もりだけもらって帰った。

 

翌日、夫といっしょに別のお店に行って、おなじようにスマホコーナーをうろついていると「お伺いしましょうか!」と今度は威勢よく、男の子が話しかけてきた。若いけれどやる気はありそうだ。「はい、おねがいします」と返事をしたら、うれしそうに、「はいはい、今日はどういったことを?」とすこし膝を曲げて、私たちの目線よりも低い体勢をとった。ん? すこし違和感を感じたけれど、気にせずに「iphone7・・・・・・」と言うと、「あー、はいはい! ちょっと安くなってないかなーとかそういったことですか?」と返ってきた。そうそう、話が早い。見込みがあるぞ。楽しくなってきた。不動産での受付業務を10年近くやってきた私にとって、テンポのいい接客はワクワクしてくる。

 

その気持ちを察したのか、彼がさらに勢いよく言った。「iphone7ならありますよ!」「あ、いえプラスのほうが欲しいんです」わたしは画面の大きいiphone7プラスが欲しかった。彼の目がサッと曇る。「あー、ないんですよ。プラスって実際、手に持ちました? 大きすぎません? 容量だけを考えるならiphone7をおススメしますけど。そんなに性能も変わらないですし。実は今日キャンセルがでたんですよ。ちょっと待ってくださいね!」とたたみかけて、奥に走っていった。

 

シーーーン。大きな声でしゃべる彼がいなくなると、私と夫の周りだけ急に静かになった気がした。それをかき消すように、わたしは夫に言った。「たぶん・・・・・・キャンセルっていうのウソだと思う・・・・・・」接客10年の経験は良くも悪くも、相手のウラの顔が見える。「きっと売りたいんだな」「苦戦しているんだな」「上司にこう言えって教えられているんだな」あきらかにマニュアルのような話し方はすぐにわかってしまう。さらに、やっかいなのが、「どうしてもこの客を逃したくない」「帰られたくない」といった焦りの気持ちは手に取るようにわかる。自分がそうだったから。

 

うまく接客して欲しいわけじゃない。安く買いたいとはいえ、お金を払うわけだから、本当のことを知って買いたい。iphone7とプラスの違いなんて、大きさくらいしかわからない。どっちもそう変わらないと言われたらそうなのかもしれないし、本当にキャンセルがでたのかもしれない。だけど、「どうぞ、こちらにおかけください!」と急いで帰ってきた彼の手には、iphone7が3台もあって、色もすべて違っていた。本当にこれがすべて今日キャンセルがでたの? どういうこと? え? え? 聞きたいけれど、そんな雰囲気じゃない。言われるがままにイスに座り、見積もりをだしてもらったら、なんと5万円も割引してくれると言った。えー! 気持ちがゆらぐ。安い。即決してもいいくらいだ。画面は大きくないけれど、彼の言うように容量のことだけ考えたら、これでもいい。本当にそうだ。だけど、なんかひっかかる。

 

私と夫が見積もりの画面をみたまま、固まっていると別の女性スタッフが話しかけてきた。聞けば、子どもが二人いるそうで、私が抱っこしている娘を「かわいい盛りですね」とほめてくれるので、すこしだけ母子の話に夢中になった。2、3分後、会話が途切れたところで、もう一度、見積もりの画面に目をやったけれど、さっきの即決の勢いは消えていた。気づけば、男の子はいなくなっていて、女性スタッフがわたしたちの接客にまわっていた。

 

そのとき、ハッと思った。この女性スタッフは彼の先輩で、決めかねている私たちを見るに見かねて、彼の援護射撃に入ったのだ。わたしも昔よくやったから、わかる。あー、わたしってどうして、こんな風に考えちゃうんだろう。そう思ってしまったら、どんな言葉もスッと入ってこない。すごく流暢に、なるほどと思わせる言葉をかけてもらうのだけど、ぜんぶどこかで聞いたことがある。申し訳ないけれど、「せっかく時間をとっていただいたのですが・・・・・・」といったん帰らせてもらうことにした。

 

私たちはその足で例の学生風の女の子のところにいった。昨日は大丈夫かなと思ったけれど、背が低いその子が男の人を見上げて接客しているのを見たら、「堂々としているな」と逆に頼もしく思えた。さっきと比べたら値段は高かった。だけど、ここで決めたい。この女の子に申し込みたいと思った。

 

昔、お客様から一度だけ言われたことがある。「あなただったから、決めた」ずっと忘れていたけれど、一番うれしい言葉だった。接客は「売るもの」で決まるんじゃない。「売る人」で決まると言われた気がしたから。だけど、毎回そんな言葉をもらえたわけじゃない。売るのに必死で、お客様の気持ちを盛り上げる作戦ばかりを試していた。売れないときは運が悪かった、相性が悪かったとしか思ってなかった。だけど、そうじゃない。お客様は私が買わせたいものの話じゃなくて、自分が買いたいものの話が聞きたかったんだと思う。その場限りのマニュアル接客じゃダメだった。うまくいったときは、私の言葉で話していたような気がする。できるだけ隠さずに。難しいけれど。

 

ちょっと欲張りな買い物といっしょに、10年分の仕事の反省がついてきた。iphone7プラスを買ったつもりだけど、私がお金を出したのは、最初からずっとホンネで話してくれた女の子の気持ちだったのかなと思っている。

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