ほんとうの優しさとは。与えて受け取るチカラ。〜藤本さきこさん読書会〜

「写経は仏様のコピーです」

早朝の知恩院で正座する私に向かってお坊さんはいう。「自分の字で書くのではない。何者かになりたいのなら、その人をそっくりそのままコピーすればいい」

なるほど。でも簡単に言うけど、簡単じゃない。写経は自分の心をうつす鏡だとも言われ、余計に緊張した。たった1枚の写経に1時間もかかり、どっと疲れた。ただ文字をなぞるだけなのに止め、はね、はらい、すべてを真似しようとしても、自分のクセが先に出てきてしまう。自分を変えるってむずかしいんだな、と思った。

法然は、死ぬときには何も持っていけないのだから、生きているうちも何もいらないと着るものも住むところも行き当たりばったりだったらしい。来月から育休が明け、仕事復帰したら給料はいくらになるのか、住宅ローンはいったい何年で返せるのだろうかと所持金の話ばかりしている私には耳が痛い。

今日だって、「お金の神様に可愛がられる3行ノートの魔法」の読書会の一貫で参加しているのだから。ガツガツせずにスマートにお金が手に入ったらどんなに素敵だろうと卑しく考えている私がおかしくなる。

恥ずかしくなってうつむく私を見透かすように、「人は生きているだけで罪を犯している。動物を殺し、生きながらえているのだから」と聞こえた。昔から人の悩みなんて変わらないのかもしれない。極楽浄土へ行けるか、いつも不安に生きる庶民を救うため、「なむあみだぶつ」を広めた法然なら、罪深き私も許してもらえるような気がして、雨の知恩院を後にした。

「法然はとても優しい方だったそうです」お坊さんの声が耳に残る。

場所を料亭「木乃婦」に移し、いよいよ本番の読書会。集まった女性たちは13人。北海道、四国、名古屋、京都などからたったひとりの著者を囲み、本の感想をシェアする様子はフシギな光景に見えた。

歴史を感じるこの場所もそう感じさせたのかもしれないけれど、ここにいる人たちは皆、見えないもの、宇宙とか、気持ちとか、そういうものをはっきりと目に見える形で感じたくてきているような気がする。答えを見つけたい。神秘にせまる気迫を感じた。

そんな人生相談のようなものに、即座に優しく答える著者は、今思い出してみると、法然が各地を歩き、立ち止まっては人々に救いの説法をするのと似ているのかもしれない。

「法然はとても優しい方だったそうです」

クジ引きで最後を引いた私は、何を話そうか迷っているうちに順番が回ってきた。ラッキーなことに著者の藤本さきこさんが隣に座った。1メートルもない距離で見つめられると興奮してきて、質問よりも身の上話のようなもので持ち時間の半分以上も使ってしまった。

はやく言いたいことを言わなきゃ、と早口で「娘は一歳半で……」というと、「え、お子さんいらっしゃるんですか、見えない」と。え! うそ! 思いがけずの言葉がうれしい。さらに焦り気味で、「わたし37歳までずっとそう思ってきて……」と続けると、またも「え、20代かと思った!」なんて!

もう、えーーーーーーーーーーーーーーーーーー!

ですよ、マジで。うれしかった、うれしすぎた。現代の法然は、キレイで小柄な女性に姿を変えて、こんなことまで言ってくれるのか。3日前にもらってもまだ色あせないうれしさ。どこからともなく染み出してくる。

それなのに私は、その言葉をもらった瞬間、うれしさを、「えーーーーーーーーーー」でしか表現できなかった。とても悔しい。なぜ、ありがとうございますが言えなかったのだろう。

受け取るチカラがなかった……。

数知れない人々から拝まれ、ありがたがられ、お金や富を与えるわけではなく、ただ言葉をかける法然は晩年、家まで人からもらったそうだ。

藤本さきこさんもそう。ファンからの好き、ありがとう、キレイ、あなたみたいになりたいを素直に受け入れる。私にはどうしてそれができないんだろう。

参加者一人ずつに配られるノートには、それぞれ著者からの手書きのメッセージが付いてくる。私には、こう書いてあった。

「自分を見下さないこと」

自分を見下さずに、できることを惜しみなく出し切る。そうして初めて、受け取ることができるのかもしれない。

与えて受け取るチカラがある人は、ほんとうの優しい人なのかもしれないな。与えるものは、どうだ! すごいだろ! みたいなものじゃなくて、自分から絞りだしたホンモノ、本当であればいい。

そうすれば、お礼もほめ言葉も素直に受け取れる気がする。私はまだどこか、ムリしているのかも。そんな気持ちも宝物みたいに大切にしよう、そう思った。

お金の神様に可愛がられる3行ノートの魔法著:藤本さきこ

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