振り返ればヤツがいる。プロになりたければ、と背後からささやく。

「つべこべ言わず、やる」

娘が散らかした後、夫の部屋を掃除していたら、新聞の山から一枚の記事が目に飛び込んできた。「島耕作シリーズ」を書いている弘兼憲史さんのインタビュー記事。プロは、ふつうの人の2倍3倍のスピードで仕事をこなす。どうやって、その力をつけてきたのか? に対する答え。

 

「つべこべ言わず、やる」

なんか、かたまってしまった。早くここを片付けて、娘が待つリビングに戻らないといけないのに、賞状を受け取るときみたいに右手と左手でゆっくりその記事を持ち直した。

 

私はずっとずっと、書きたいと思っていて、まわりにも公言して、自分を追い込んでいるのに、なかなか思うようにいかない。もう3年が過ぎた。思うようにいかないのではなく、思うようにいかせようとして、そうならないのが怖いから、というのも、そろそろわかってきている。

 

毎晩、寝る前に、「今日は仕方なかった」「明日こそはできるはず」そう思って眠りにつく。だけど、できないことから逃げた次の日は、なぜか昨日は10センチくらいだったはずの壁が、いきなり20メートルくらいに伸びていて、「これは、もうすこし体力がいるな。練習してから本番にしよう」と言って、また寝る。次の日になると20メートルくらいだった壁が……。

 

っていうか、そもそも壁ってなんだ?

練習ってなんだ?

一晩寝たら、スーパーマンにでもなってるのか?

 

んわなわけ、ねぇーーーー!!!

つべこべ言わずにやれーーーー!!!

 

弘兼さんの言葉を新聞で読んでいるだけなのに、空からぜんぶ見透かされて誰かに言われてる気がした。なんかもう、恥ずかしかった。どんだけ言い訳してんだと。言い訳して、いいことあるのかと。言い訳して寝た次の日に、すっきり起きられた日があったかと。いきなり、何かとてつもなく大きな宝の山でも見つけようとしてるんじゃないかと。

 

その前にやることがあるだろ。おい、地図はあるのか? 足元は固めたのか? そもそも一人でいこうとしてるんじゃないか?

バカヤローーー!!! もっとコツコツでいい! 泥臭くていい! 人に頼りながらでいい! 弘兼さんもそう言っていた。小さく締め切りを設けること。軽い仕事から始めること。そんなこともできないで、何が夢だ。

 

いますぐ、やれ!!!

はい、そうします。その新聞記事をすぐにおいた。いつもなら、ここでスクラップ……とか言い出している。そんなことは必要ない。逃げるな! 私は振り返る。そして、背後からじっと私を見ている真っ黒な画面の電源ボタンを押した。

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